東洋英和女学院の元学院長である深井智朗氏による著書の不正が話題になっています。
深井氏は、実在しない人物カール・レーフラーを捏造し、レーフラーが書いたとされる論文を著書に引用していました。深井氏によると、カール・レーフラーは、ドイツ人の神学者です。
不正が見つかった本の題名は、『ヴァイマールの聖なる政治的精神ードイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』です。平成24年に出版したドイツ宗教学の専門書です。
これは、小柳敦史氏(北海学園大学准教授)の指摘が発端のようです。
ちなみに、同書をAmazonで見たところ、1万円以上の値段がついています。今回の騒動が関係しているのかもしれません。もしかしたら図書館でも読めるかもしれないので、興味のある人は借りると良いかもしれません。
ヴァイマールの聖なる政治的精神――ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム
また、深井氏の書いた『プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで (中公新書)』という新書は、優れた論文や著作に与えられる「読売・吉野作造賞」を受賞しています。Aamazonでの評価も非常に高い本です。
プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで (中公新書)
深井智朗氏はどんな人物?
深井智明(ふかいともあき)氏は、日本の宗教学者、ドイツ思想史の研究者です。
深井氏は、1989年に東京神学大学大学院修士課程を修了しました。東京神学大学は、東京の三鷹市にある私立大学です。牧師などを養成する学校です。
そして、1992年にアウクスブルク、ミュンヘンで哲学、社会学、神学を修め、1996年にはアウクスブルク大学(ドイツ語版)哲学・社会学部で哲学博士を取得しています。
1996年から聖学院大学で教授を務め、2017年から東洋英和女学院の学院長をしていました。
経歴だけを見ると、かなりのエリートの方だと思います。外国で博士号も取得し、その後大学で職を得ていますから、研究者としてはかなり順調に進んできた人だと思います。
そのため、なぜ論文の不正を行ったのか理解できない人も多いのではないでしょうか。しかも、存在しない人物を創作するという、かなり手の込んだやり方も不思議です。
『風の歌を聴け』のデレク・ハートフィールドと似ている?
私はこの話を聞いて、村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』を思い出しました。
この小説では、デレク・ハートフィールドという小説家の話がよく出てきます。しかし、この小説家は実在しません。
年表や著作などかなり細かく設定されているので、知らない人は本当に存在すると思ってしまうでしょう。実際、図書館にデレク・ハートフィールドの本を問い合わせる人がいたそうです。
ただし、村上春樹は小説なので、架空の人物でも問題とはされません。今回は学者による専門書だったので、大きな問題となりました。
深井氏は大学を懲戒解雇されました。これからどうされるかわかりませんが、優れた研究者のようですので、もしかしたら在野で研究を続けられるのかもしれません。