近代社会の「時間意識」とは?真木悠介『時間の比較社会学』感想

真木悠介『時間の比較社会学』という本を読みました。

「時間」についての考え方は、実はその社会や時代によって異なります。

たとえば、現代を生きる私たちの多くは、5年10年先の未来があると思っており、その未来のために現在を生きるということを行っています。

しかし、本書で何度か出てくるアフリカの伝統的な時間意識には、未来というものがそもそも存在しません。このような時間意識から見ると、ありもしない未来のために現在を生きる私たちは、奇妙な存在に見えるかもしれません。

時間とは具体的に手で触って確認できるようなものではなく、人間の意識の中で構成されるものですから、時間に対する考え方も時代や場所によって違うのも当然なのかもしれません。

この本の著者は様々な歴史や社会と「比較」しながら、私たちが当たり前だと思っている時間の考え方の特徴を明らかにしていきます。

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「近代社会における時間意識の特徴とは」

著者が1番に問題にしたかったのは、おそらく未来のために現在を手段化するという近代の時間意識だと思います。

たとえば、老後のために一生懸命働いたり、偏差値の高い学校に入るために一生懸命勉強をしたりすることです。

このどちらも、将来のために現在を手段化しています。現在から未来にかけて、人生を細かくスケジュール化することも多いでしょう。

しかし著者によると、このような時間意識は人生をまずしくより単調なものにします

このようにスケジュール化された人生の「行動上の影響」としてウオーフが述べている、つぎのような観察のもつ含意は重要である。「われわれはまずこのことから、できごとというものが実際以上に単調であると信じ込んでしまう」。つまり人生のいわば<時間的なゲシュタルト化>が、これを単調化する方向でなされるとすれば、そのイメージは抽象化されたまずしいものとなるだろう。

同時にこのことが、「予期できないことに対する無関心」をもたらし、スケジュール化された未来に向かって人びとの関心をいつも上すべりさせてゆく結果、現在への生き生きとした関心の集中を希薄化し、すでに前章でみてきたような<現在からの疎外>を増幅することによって、実際にもその人生をまずしくより単調なものにするだろう。

加えて、思い描いていた未来がいざ到来したときに、それがイメージしていたものとは異なる可能性もあります。

そうすると、そのために犠牲にした時間はいったいなんだったのだろうと、まるで人生を無駄にしたような感覚に陥る可能性もあるでしょう。

「ニヒリズムにもつながる」

また、この近代の時間意識は、必然的に死の恐怖と生のむなしさという「ニヒリズム」につながります。

なぜなら、将来を考え、未来へとさかのぼっていくと必ず「死」にたどり着くからです。

将来必ず死ぬと考えると、現在していることの一切がむなしくなります。これがニヒリズムです。

「時間の物象化」

もう一つ興味深かったのが、時間の物象化です。

近代社会では、人間が生み出した時間の考え方が、逆に人間の行動や考え方を支配するようになります。

*物象化とは、もともとはマルクスが使用した考えのようですが、本書で使用されている物象化の意味は「人間が作った物が固有の法則性をもって人間を支配する」という、ルカーチの物象化論に近いように思われます。wikipediaによる説明は以下です。

物象化論が注目されるようになったのはルカーチ・ジェルジの1923年に発表した論文「物象化とプロレタリアートの意識」(『歴史と階級意識』所収)からである。

彼は<人間が作った物が固有の法則性をもって人間を支配する>という事態を物象化と呼び、経済だけでなく政治やイデオロギーの領域にも物象化が存在すると主張した。

物象化-wikipedia

著者によると、常に時間の早さを求められる現代の子どもは、その結果音楽も早いものが良いと感じるようになります。

ある音楽家の文章によると、下手でも早く弾いた曲と、上手にゆっくり弾いた曲とを聞かせると、母親の「早く、早く」のシャワーの中で育て上げられた現代の日本の子どもは、一様に早く弾いた演奏の方を「上手」と言うという。

これは、時間についての意識が、人間の感性まで支配してしまうことを意味しているでしょう。

「近代の時間意識を否定するのは非現実的?」

一方で、著者によると、未来のために現在を手段化することや、時間が物象化することは、近代市民社会が成立するうえでの条件となっています。

そのため、近代的な時間意識の一切を否定することはユートピア的な考えであり、非現実的です。

ではどうすればいいのでしょうか?

著者が示唆しているのは、未来のことを考えつつも、現在の生を充実させることです。近代の時間意識を「否定する」のではなく「乗り越える」ことです。

すなわちわれわれの意識が未来を獲得し、われわれの生が未来に向かって組織化されているばあいにも、われわれが同時に現在それじたいへのコンサマトリーな意味の感覚を喪わないかぎり、そして未来への関心が有限な具象性のうちに完結する構造を喪わないかぎり、死はわれわれの生をむなしいものとはしない。

現在の生を充実させる方法とは、具体的には他者や自然との交響であると著者は言います。

他人と交流している時間、自然の中で過ごしている時間は、現在の生を充実させる1つの方法になりえます

結論はややありふれているようにも思えますが、当たり前だと思っている時間についての考え方を相対化して見ることができるという点で、とても面白い本です。

特に、現在の社会で窮屈さを感じているような人にとっては、解放感さえ覚えるかもしれません。

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