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【村上春樹】死刑囚の弟が書いたノンフィクション作品、『心臓を貫かれて』の感想

『心臓を貫かれて』という本を読みました。

死刑囚の弟が書いたノンフィクション作品です。村上春樹が翻訳をしています。

この死刑囚はゲイリー・ギルモアという人物で、2人を殺害した罪で死刑を宣告され、その後銃殺刑になりました。

ゲイリー・ギルモアは、自ら死刑になることを望み、「死刑される権利」を主張したことで有名です。

本書は、このゲイリー・ギルモアの弟であるマイケル・ギルモアが、兄と家族についての歴史を詳しく書いたものです。

まとまりはないですが、本を読んで印象的だった部分を紹介します。

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「失踪と虐待を繰り返す父」

ギルモア兄弟は複雑な家庭環境に育ちました。

父親は犯罪まがいの仕事をしていて、「誰かに追われている」と何度も失踪を繰り返すような人物でした。

ときにはガソリンスタンドで給油中、突然家族を残して1人いなくなることもありました。

この父親のせいで家族は住む場所を転々とし、ときにはホームレスの収容施設にもいました。

また、父親は子どもに虐待をすることも多く、特にゲイリー・ギルモアに対してはひどかったようです。

母親は、父親とはだいぶ年齢が離れていました。敬虔なモルモン教徒の家族に育ち、その反発から自由に見えた父親と結婚しました。しかし、母親と父親は毎日のように激しい夫婦けんかを繰り返します。

この複雑な家庭環境が、ゲイリー・ギルモアが犯罪を犯す原因になったとも考えられます。

しかし、著者はこれを家族だけの問題ではなく、祖先までさかのぼり一族の暴力の連鎖としてとらえます。

よく虐待を受けた人物はまた虐待を繰り返すと言われますが、そのような代々受け継がれてきた暴力の連鎖がギルモア一家にも見られたと考えられます。

「家族の「呪い」」

しかし、それでも家族には何度か平穏な時代が訪れます。晩年は父親も仕事に成功し、家を持つことができました。

ゲイリーも芸術の才能が認められ、大学で美術の勉強をする機会が与えられました。

しかし、そんなうまくいきそうな気配があるときでも、ギルモア一家はなぜか最後の最後でうまくいきません。これはもう著者もいうように、一家に呪いがかかっているとさえ思えました。

「弟だけ家族の呪いから逃れる」

この本を書いた弟のフランク・ギルモアは、ただ一人家族の呪いから逃れることができたように見えます。

フランク・ギルモアは父親が年を取ってからの子どもで、父親から虐待を受けることはなく、可愛がられて育ちました。そのため、家族の悪い影響をあまり受けずに過ごします。

その後、早く家を出て、音楽ライターとして成功をおさめます。

他方で、自分だけ家族の呪いから逃れたことに負い目のようなものも持っています。

「もう一人の失踪した兄との再会のシーンが印象的」

特にもう一人の兄、フランク・ジュニアとの再会のシーンが印象的です。

フランク・ジュニアは家族思いの人物で、父親が亡くなった後は母親と同居して世話をしていました。しかし母親が亡くなると、突然失踪してしまいます。

その後、著者はこの失踪した兄の行方を突き止め、再会します。このシーンがまるで映画のように印象的でした。

フランク・ジュニアは世捨て人のように、貧困地区でその日暮らしの生活をしていました。作家として成功した弟の迷惑になりたくないと、連絡することもなく姿を隠していたのです。

呪われた家族の世話に人生を捧げてきた兄のそんな姿を見て、そこから逃れた著者は申し訳ないような気持ちになります。

「まとめ」

ゲイリー・ギルモアは、父親の虐待などが原因で犯罪を犯してしまったと考えることもできますが、その背後には何かもっと大きな物語のようなものが作用しているように思えました。

そして、ただ一人そこから逃れることのできた弟が、家族への贖罪の意味も込めてこの作品を書いたようにも見えました。

ノンフィクションではあるのですが、どこかフィクションのような物語としても読めるような作品でした。

村上春樹が翻訳を担当しているように、どこか村上春樹の小説にもありそうな内容でした。村上春樹の小説が好きな人は特に興味を持てるかもしれません。


心臓を貫かれて

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