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「ひきこもり」の意味を反転させる実践? 勝山実『安心ひきこもりライフ』感想

勝山実『安心ひきこもりライフ』を読みました。

この本は、現役のひきこもり当事者によって書かれたひきこもりについての本です。

著者は実に20年間ものひきこもり経験があり、さらに現在もひきこもり継続中のようです。

ひきこもりについての本はたくさんありますが、この本がユニークなのはひきこもりの人がひきこもりのままでいることを肯定している点です。

おそらく、ひきこもりについての本の多くは、ひきこもりに理解を示しつつも最終的にひきこもりからは脱するべきという結論になることが多いでしょう。

また、著者がひきこもり当事者である点も興味深いです。ひきこもりの本の多くは、医者や評論家、ジャーナリストなど非当事者によって書かれたものだからです。

その点でこの本は少し変わっていると思いました。

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「悟りの境地?」

このひきこもりを肯定するという思想は、一見突飛なように見えますが、著者の長いひきこもり経験と、統計的な実態を取り入れた「現実的」なもののようです。これもなかなか面白いです。

落ちぶれた今となっては身にしみてわかていることですが、ひきこもりは高望み出来なくなった時に初めて人生の「選択肢」が広がります。可能性を広げるとは、堕ちることなんですなあ。上昇志向は狭き門をこじ開けるための体当たりのようなもので、だめならその場でずっと倒れたままです。門は必ず開くと信じていると、一生門の前をうろつくはめになります。そうならないために階段をひとつ降りるのです。夢は諦めるとかなう、というのはこういう仕組みなのです。

上昇志向や、夢、理想を諦めた上で出された結論が、「ひきこもり」を肯定することのようです。

いつかひきこもりから脱出して正社員になる、ネットビジネスで一発当てるなどの上昇志向は、もしそれがかなわなかった場合、苦しみの原因なったり、詐欺にあうことにつながります。

実際、長期ひきこもりの人が普通の人として社会復帰できる可能性はかなり低いようです。またアフィリエイトの商材でだまされるひきこもりの人もいるようです。

一般的に、人生の苦しみや挫折は理想と現実のギャップから生じると言われるので、このような考え方は苦しみを減らすという意味でも正しいものなのかもしれません。

一種の「悟りの境地」に近いのでしょうか・・。

もちろん、上昇志向を捨て一生ひきこもりのままでいることも、それはそれでかなり大変なことだと思います。しかし、本書ではその点についても具体的なノウハウが書かれていて、参考になります。

「「ひきこもり」の意味を反転させる」

また、この本で面白いと思ったのは「ひきこもり」という言葉の意味を反転させているということです。

たとえば、ひきこもりを笑い飛ばしたり、戦国武将にたとえたりしています。

ひきこもり息子がする最大の親孝行が、ママンが買ってきた服を着ることだということは、もう常識ですよね。ファッションをママン色に染める、これ以上の孝行など存在しません。

専門家やニュースなどで語られるひきこもりのイメージとはまた少し違っていて、面白いと思いました。

このひきこもりの意味を反転するようなユニークな語り方は当事者の人しかできないことですし、他から押し付けられたひきこもりのイメージを無効にしているようにも見えて興味深いと思いました。

また、ネガティブなひきこもりのイメージに支配されていると精神的に辛いようにも思うので、このような意味を反転する実践は感情的な安全を確保し「安心してひきこもる」ためにも大切なことなのかもしれません。

この部分などは、「べてるの家」の当事者研究の話と似ているのかなと思いました。

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「恐怖と不安について」

〇〇しないと大変なことになる。これには実態がない。わからないものに恐怖している、わからないから恐怖を感じる。脱ひきこもりをかけて必死に働いても、この恐怖と不安はなくならない。働けば、新しい恐怖と不安が現れるのです。就労とそれで得たものを、維持し続けなければいけない。

さも、変えられる将来がある人のように、恐怖する必要があるでしょうか。まな板の上の魚が海に逃げることを考えるでしょうか。就労に対する恐怖は何年も前に過ぎ去った、と気づくべきです。

〇〇しないといけない、と将来の不安や恐怖を感じるのは「将来は変えることができる」という前提で生じる感情だそうです。

しかし、もし変えることができないとわかれば、このような不安や恐怖の感情は消えるかもしれません。

これも著者がひきこもりを肯定する理由の一つなのでしょう。

他にも面白い話がいろいろあり、ひきこもり当事者じゃなくても参考になる本だと思いました。

 

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